どこかの水族館で
館長に案内されている
館長は歩きながら
ときどき水槽の中に
エサを入れている
大きな水槽の中に
今まで見たことのない
生きものがいた
ドジョウのようであり
ウツボにも似ている
イトウという魚にも似ている
からだが大きなわりに動きは機敏で
なんとなく好きになれない
「これは今まで見たことがないです」
「世界でここにしかいないのです」
その生きものは
大きな口を開けて
同じ水槽のなかにいる
別の種類の生きものに
何度も食らいつくが
食いちぎるようすはない
しばらく見ていると
その生きものが
水面から大きく飛び上がり
水槽の上のほうにあるすきまに
からだをもぐりこませた
生きものは
からだをくねらせ
やがて水槽の外に落ちた
生きものは
人間に敵意を抱いているのか
からだをくねらせ
床の上をすべるようにして
こちらに近づいてくる
追いつかれないように
館長といっしょに逃げるが
館長には
かすかな余裕が感じられた
(2015年2月16日)