むかし
まだ宇宙旅行の技術が未熟で
宇宙へ行った人間が
いなかった時代
実験のために
一匹の犬が
宇宙船にのせられて
宇宙へ旅立ちました
しかし
それは帰ってくることのできない
片道切符の旅でした
やがて
宇宙旅行の技術が進歩すると
人間が宇宙へ行って
帰ってくることができる
時代がおとずれました
しかし
そんな時代に
ふたたび一匹の犬が
宇宙へ旅立ちました
でも
それは
またしても
片道切符の旅でした
しかも
その犬は
とても年老いていました
この宇宙旅行を
計画した人たちは
知っていました
宇宙飛行士を
あこがれの職業として
たくさんの人たちが
あつかってくれること
若者におとらず
かつやくする老人を
たくさんの人たちが
もてはやしてくれること
「おいぼれの犬にできて
若い人間にできないことはない!」
この宇宙旅行の目的は
なにごとにも不平不満を言わず
命よりも労働を大切にして
がんばればどんな願いも
かなうという幻想を
信じる人間をふやすことでした
宇宙船の中で
犬は夢を見ていました
その夢は
宇宙飛行訓練所に
いたときの光景でした
ハンバーガーを食べている
世話係の横に犬はいました
「いつかひときれくらい
もらえるだろう」
犬はそう信じていましたが
ひときれももらわないまま
宇宙船にのせられました
夢見る犬がのっている
宇宙船へむかって
一せきの宇宙船が
近づいてきました
その宇宙船にも
一匹の犬がのっていました
それは
むかし
片道切符の宇宙旅行に
旅立った犬でした
すでにその犬は
息絶えていましたが
宇宙船は長い年月のあいだ
宇宙空間をさまよい
たまたま地球の近くを
通りかかったのでした
ふたつの宇宙船は
ぶつかりあい
ばらばらになりとなりました
そのかけらのいくつかは
地球にむかい
地上へ落ちるまえに
あざやかな光を放って
燃えつきました
その光を地上で見ていた
ひとりの少年は
あわててつぶやきました
「将来はマンガ家になれますように!
将来はマンガ家になれますように!
将来はマンガ家になれますように!」
(2014年7月7日)