はたまん文庫

おなかがへこんだタヌキ

男は
山の中で
ウマと暮らしていました

「こんにちは
タヌキさん
いい天気ですね」

「こんにちは
いい天気ですね」

ある日
山のふもとに
りっぱな道路ができたので
男とウマが見物へ行くと
ひと足さきにタヌキが
見物に来ていました

「こんにちは
タヌキさん
りっぱな道路ですね」

「こんにちは
りっぱな道路ですね」

タヌキは
道路の上にころがって
新品の道路のはだざわりを
たしかめていました

そこへ
一台の自動車が
走ってきました
車の運転手は
タヌキが見えたので
ブレーキをふみましたが
まにあわず
タヌキの上に乗り上げ
そのまま
走っていきました

そのあとに来た自動車も
ブレーキをふみましたが
まにあわず
タヌキの上に乗り上げ
車の運転手は
タイヤがよごれなかったか
心配しながら
行ってしまいました

三台目の車は
ブレーキをふまずに
タヌキの上を
走っていきました
そのあとも
つぎつぎに車がきて
タヌキは
まんべんなくふまれました

「ぺったんこですね
タヌキさん」

男は
ねんのために
声をかけてみましたが
返事はありませんでした

「高速で走る
鉄のかたまりは
あぶないので
これからはウマを!」

そう書いた手紙を
男はテレビ局と新聞社と
人の役に立つ親切な本を
いっぱい売っている出版社へ
送りましたが
まったく相手に
されませんでした

男は
自動車の会社にも
手紙を出しました
すると
数日して
返事がとどきました

手紙には
つぎのように
書かれていました

「安全運転すれば
車は安全です
あぶないのは
車を運転する
人間です」

(2011年11月21日)