はたまん文庫

森はキレイ好き

ミケコは
歯医者さんの待合室で
自分の名まえが
呼ばれるのを
待っていました

「医者の仕事は
患者が待合室で
待っている時から
始まっている」

この病院の医者は
そう考えていたので
待合室は
こまやかな気配りが
行き届いていました

たとえば
天井と壁は
患者によけいな刺激を
あたえないために
まっ白な無地でした

おかげで
遠近感がつかみにくく
壁にぶつかる患者さんが
後を絶ちません

片隅に置かれた本棚には
中身を吟味された本が
ならんでいました

他人が不幸になることを
楽しみに生きている人たちが
たいくつしないですむ
ありがたい雑誌は
一冊もありません

ひとりで好きなものを
おなかいっぱい食べるには
まわりの友だちが負け犬に
なってくれればいいという
世の中のしくみを
親切にやさしく説いた
子供むけの本もありません

ミケコは
表紙に自然の風景写真を使った
雑誌を手に取り
ページをめくると
「森でいやされる人たち」
という見出しを
見つけました

そのページには
どこかの大学教授の
笑っている写真と
コメントがのっていました

「森林の中というのは
樹木がフィトンチッドという
殺菌効果や防虫効果がある
成分を出しているために
空気がきれいで
人間の健康にいいことが
わかっているのです」

「殺菌効果・・・」

「防虫効果・・・」

ミケコは
雑誌を閉じると
こころの中で
つぶやきました

「からだに悪そう・・・」

(2011年11月13日)