山の中腹
樹木は少なく
岩が目立つ
そこに
知人のKさんが
立っている
Kさんは
斜面の岩に穴を掘り
そこを住居にして
暮らしている
あたりを
数匹の犬が
走り回っている
彼らは
下界と山の中を
行き来するのが
日課になっているらしい
山道をのぼって行くと
犬たちもついてくる
日が暮れるので
帰ろうとすると
犬たちが先を争って
山道をおりて行く
犬たちの中に
見たことのあるような
犬が数匹いたが
特別な感情はわいてこない
どの犬も愛おしく
なにか食べものを
与えたくなる
山道をおりてくると
Kさんの姿が見えた
犬たちは
Kさんの飼い犬では
なさそうだったが
親しくしている間柄だと思い
Kさんに
「なにか食べものをやっても
いいですか?」
とたずねてみると
「ああいいよ」
と返事が返ってきた
犬たちに
あげるものを考えながら
Kさんの住居に入ろうとすると
犬たちが
岩のすき間にもぐりこみ
一匹残らず
姿を消してしまった
Kさんの住居は
二畳ほどの広さで
一畳が寝床
半畳がいろりのように
なっている
どんな立派そうな人間も
この人にはかなわないと
Kさんの暮らしぶりを
見ながら思った
(2011年8月30日)