はたまん文庫

どうぶつたちのクリスマス

小さなときから
絵をかくことが
とくいだったサキオは
マンガ家になることを
夢みていました

サキオの両親は
サキオが
大学へ進学することを
のぞんでいましたが
彼は高校を卒業すると
親の家をでて
となり町の
ウマシカ町で
ひとり暮らしを
はじめました

「他人とおなじことを
やっていて
競争のはげしい世界で
芽がでるものか」

サキオは
アルバイトをしながら
マンガをかいて
出版社へおくりました

ある日
ウマシカ図書館で
はたらいている
サキオの姉から
サキオに電話がきました

「来月
学校が冬休みになるまえに
図書館で
こどもたちをあつめて
絵本の読みきかせ会を
やるんだけど
絵本を
かいてみない?」

サキオは
こころの中で
よろこびましたが
気がのらない調子で
その仕事をひきうける
返事をしました
サキオは
三十さいに
なっていました

絵本の読みきかせ会の日に
なりました
サキオは
ウマシカ図書館の中へ
入るのは
はじめてでした
さいしょに目にはいったのは
さむざむとした広い空間で
その奥の部屋に
本だなが見えました

「外から見るのとちがって
中は貧相なんだな」

本だなのむこうにいた
サキオの姉は
サキオに気づくと
サキオのそばにきて

「事務所で
仕事してるから
あとは
まかせるわ」

そういって
行ってしまいました

こどもは
二人いました

「なんだ
テツオと
スズコじゃないか」

二人は
サキオの姉の
こどもでした
人数の少ないことに
サキオは
プライドを傷つけられた
気がしましたが
さらに
そのこどもたちが
姉のこどもであることに
ふゆかいな
気分になりました

「さあ
よいこのみなさん
はじめますよ」

サキオは
やるべきことはやって
さっさと帰ろうと
思いました

サキオは
手づくりの絵本を
見せながら
話しはじめました

「あしたは
クリスマスです
日がくれて暗くなると
どうぶつ園から
どうぶつたちが
ぞろぞろと
ぬけだしてきました
ペンギンに
トラ
それから
クマもいます
どうぶつ園にいる
どうぶつたちは
いつも
こどもたちがきて
よろこんでくれるので
そのおかえしに
こどもたちに
会いにいこうと
半年前から
計画していたのでした」

「どうぶつたちは
とちゅうで
わかれて
それぞれが
こどものいる家を
めざしました
ペンギンが
あるいていると
ケーキ屋さんから
おいしそうなにおいが
ながれてきました
おいしいにおいの正体を
たしかめたくなった
ペンギンが
中へ入ろうとすると
ケーキを買うために
ならんでいた人が
わりこみするのは
ルール違反といって
ペンギンを
サッカーボールのように
けとばしました
ペンギンは
どうろへ
ころがり
走ってきた自動車の
したじきになって
ぺしゃんこになりました」

「トラが
あるいていると
しましまもようの
ほそいものが
ありました
トラは
しましまもようが
気にいったので
ちかづいて
からだを
すりすりしてみました
すると
そこへ列車がきて
トラは
列車にまきこまれて
ばらばらに
ちぎれました」

「クマが
あるいていると
きらきらひかる
きれいなものを
やねにのせた車がきて
中から出てきた人が
手をあげろといいました
クマは
四ほんのあししか
なかったので
じっとしていると
けんじゅうで
うたれました
クマは
とてもいたかったので
からだをうごかすと
もういっぱつ
けんじゅうで
うたれました
クマはたおれて
うごかなくなりましたが
けんじゅうをもった人は
ねんのために
けんじゅうのたまが
しなぎれになるまで
クマをうちました」

「こうして
どうぶつたちの計画は
しっぱいに
おわりました」

「・・・・」

「・・・・」

「これで
このお話は
おしまいです」

「・・・・」

「・・・・」

「いつも管理されて
ぬくぬくと
くらしているものが
いい気になって
かってな行動をすると
こっぴどいめにあうという
お話でした
きみたちは
おとうさんや
おかあさん
がっこうの先生の
いうことにさからわず
おとなしくして
いましょうね」

「・・・・」

「・・・・」

その夜
サキオが
テレビをみていると
サキオの姉から
電話がかかってきました

「きょうは
ありがとう」

「・・・・・」

「こどもたち
泣いたのね
目が赤かったわ」

「・・・・・」

「どうしたのって
きいたら
どうぶつたちが
かわいそうって
いってたわ」

「・・・・・」

「かなしいものがたり
だったのね」

「・・・・・」

「来年も
おねがいしたら
やってくれるかしら?」

「ああ」

サキオは
自分の返事に
暗いきもちになりました

(2011年12月24日)