はたまん文庫

なやましや

ある年の
秋のことでした
モグリは
町の中に
新しくできた店へ
入ってみました

中には
先生と書かれた札を
胸につけたキツネがいて
モグリを見て言いました
「あなたが
ここへ入ってきた時
通ってきたすきまは
手紙や新聞を
配達してもらうための
すきまですよ」

モグリは
キツネ先生の
言ったことには
関心をしめさず
ききたいことを
ききました
「ここは
なにをしてくれる
店なんだい?」
「あなたは
なにかに悩んでいるから
ここに来たのでは
ないのですか?」

「ここが
どんな店なのか
悩んでいるよ」
モグリがそう言うと
キツネ先生は
イライラしながら
言いました
「ほかの生きものとの
いざこざや
仕事によるストレスを
解消する
お手伝いをする店よ」

「ストレスって
なんだい?」
「ストレスと
いうのはね・・・」
キツネ先生は
ストレスについて
話し始めましたが
モグリは
キツネ先生の話より
キツネ先生の足が
気になってしかたが
ありませんでした

「この足をかじったら
どんな味が
するんだろう?」
モグリが
ぼんやり考えていると
キツネ先生は
モグリの耳をつまんで
どなりました
「あんた!
わたしの
ありがたい話を
ちゃんと
ききなさいよっ!」

それから
モグリは
キツネ先生から
ありがたい話を
一時間かけて
きかされましたが
なにひとつ
ありがたいと
思えませんでした

その夜
モグリは
キツネ先生に
耳をひっぱられて
痛かったことを
思い出して
いつもように
ぐっすりと
眠れませんでした

その後
モグリは
その店が
とても
はんじょうしているという
うわさを
耳にしましたが
その店を
ふたたび
おとずれることは
ありませんでした

(2010年12月18日)